THE PERSON
-登場人物の紹介

第1回目のお客様


セイコーサービスセンター
株式会社

営業部長


国枝大和様

Kunieda Yamato
1961年岐阜県生まれ

 

聞き手


株式会社石国

代表取締役 社長

東京美装商工業協同組合 理事長


石田国久

Ishida Kunihisa
1966年東京生まれ

まえがき

本日お相手をして頂くのは、日本そして世界の時計業界をけん引する企業「セイコー」グループの腕時計事業におけるアフターサービスを担当する会社「セイコーサービスセンター株式会社」の営業部長であります国枝大和様です。
国枝様は、多方面での豊富な営業経験をされた時計営業のプロフェッショナルです。

その国枝様の目には、
時計ベルト業界はどの様に映るのか―

そして、時計販売のプロが時計ベルトを担当したらどうなるのか―

先日リニューアル販売された「WAQUIZ(ワクイズ)」の開発秘話とは―

聞きたい話が沢山あり非常に楽しみです。


はじめに

(石田)本日はお時間を頂戴いたしまして誠にありがとうございます。時計ベルトの世界をより多くの人々に知って頂きたく、お話をお伺いできればと思っております。よろしくお願い致します。

(国枝)こちらこそよろしくお願い致します。


セイコーサービスセンターについて ≪「独立採算」が向上心をもたらす≫

(石田)時計ベルトの話に入る前に、はじめにセイコーグループにおける「セイコーサービスセンター株式会社」の位置づけについて教えてください。

(国枝)持ち株会社であるセイコーホールディングスを中心に事業部毎(ウオッチ事業、クロック事業、眼鏡事業、電子デバイス事業、その他小売事業等)に会社が分かれており、そのウオッチ事業の筆頭にセイコーウオッチ株式会社があり、その下に、小売業の「株式会社クロノス」とセイコーのウオッチ事業のアフターサービスを全て担う「セイコーサービスセンター株式会社」があります。

(石田)アフターサービスの会社が独立したのはいつごろですか。

(国枝)「セイコーサービスセンター株式会社」は1964年に設立された「株式会社セイコー時計部品センター」と「株式会社セイコーサービスセンター」が1986年に合併して設立され今年で26年目を迎えます。

(石田)アフターサービスの会社を独立させ、独立採算で経営していくというのは素晴らしいことと思うのですが。

(国枝)アフターサービスの会社を独立させることはデメリットとしては販売との距離が存在してしまうことです。しかし、独立採算は技術力向上、お客様対応力向上等、アフターサービスを充実させるための原動力として大きな効果があり、それがメリットであると考えています。修理部門は殆どがコストであり、利益を出すのが非常に難しい事業であります。収益という部分に目を向けるならば、結果として時計ベルトや時計のアクセサリー等を充実させていくことが必要になってくると思います。


国枝大和さんについて ≪「真実の瞬間」の大切さ≫

(石田)国枝さんが時計業界に身を投じたきっかけは何だったのですか。

(国枝)特に時計好きとかセイコー好きとかいうことはありませんでした。たまたま地元の中部地方にある大手百貨店にメーカーからの派遣として勤める機会があり、セイコーからの派遣として店頭で時計を売ったのが始まりです。5年近く時計を販売しました。お客様に時計を買っていただくことが全ての源泉であり、我々を存在させていただき、そしてここから利益が生まれるという「真実の瞬間」を経験できたのは非常によかったと思います。この「真実の瞬間」を大切にするという考え方は今でも変わりありません。そこに全ての答えがあると思います。どの担当だろうとお客様の大切さを身に染みてわからないといけないと思っております。そして、その様な思いを社内で共有させていくことが今の私の役割の一つと考えております。

(石田)国枝さんはセイコーウオッチからセイコーサービスセンターに移られてきて、時計販売とアフターサービスの両方の部門で営業の経験をされていますが、それぞれ経験して何か気づいたことはありますか。

(国枝)時計を販売していた時は、内外装部品の充実が時計販売の役に立っているとはあまり思いませんでした。しかし、どの様に部品が市場に流れていくのかを確認し、また、部品管理の実情を理解していくことにより、部品管理の充実が時計の実売に影響することを知りました。時計ベルトは、通常の商品としてセイコーウオッチでも販売していましたし、電池も店頭で交換した経験がありますので馴染みがありました。また、営業の基本は商材が違っても変わりありませんので、セイコーウオッチでの経験が非常に役立っております。違いを挙げるとしたら、お客様まで「遠い」ということです。流通上の問題ですが、お客様から販売店、セイコーウオッチを経てセイコーサービスセンターに届くわけですから、こちらから積極的に動かなければお客様に近づけないと感じました。お客様と近づけるようにしていくことも私の役割の一つと思いました。


時計ベルト市場について ≪もっと「ワクワク」させよう!≫

(石田)時計ベルト市場についてどの様に感じておりますか。

(国枝)セイコーサービスセンターに移ってきて最初に感じたのは、大量生産、大量陳列、大量販売、多頻度訪問が成り立つ商売だと思いました。これだけしかないと正直思いました。高度成長時代のやり方であり、これはよくないと思いました。これは変えていかなければならないと思います。本当にエンドユーザーを見ているのか。ワクワクさせているのか。疑問に思いました。時計ベルトの扱いが低いと感じました。

(石田)まさに同感です。時計ベルトの地位を向上させたくて、この「ウォッチェルト談義」を企画したところです。さて、時計ベルト市場には大きく分けて純正ベルト(もともと時計についていたベルト)と市販ベルト(純正ベルト以外)がありますが、セイコーサービスセンターはその両方にセイコーブランドとして製品を揃えていますが、その棲み分けはどの様に考えておりますか。

(国枝)純正ベルトは、時計全体のデザインや嵌合部(かんごうぶ:時計とベルトを取り付けるところ)の形状により選ばれることが多いので、ある程度マーケティングを意識しなくてもよい製品だと思います。一方市販ベルトはしっかりとお客様に向かわなければいけない製品ですが、セイコーサービスセンターは時計ベルトに関してあまりお客様を意識して販売してこなかったと思っています。これからは、お客様に向き合っていきたいと考えています。


「WAQUIZ」のリニューアルについて ≪第一歩を踏み出すのは我々だ≫

(石田)その最初の一歩が今回リニューアルした「WAQUIZ」(2011年11月04日発売)だと思うのですが、特徴はどんなところにあるのですか。

(国枝)セイコーグループが提供する、安心できる、品質の良い、高級感のある、機能の優れたベルトというのがまず初めに来る特徴です。ごくありふれた特徴ですが、これを申し上げるために多くの時間と労力を費やしました。お客様に育てて頂いたセイコーがお客様に提供するベルトですので、どうあるべきかを本当に時間をかけて考え出しました。

(石田)考えた結果のひとつとして、時計ベルト業界では初めての試みだと思うのですが、今回の「WAQUIZ」は、寸長(通常よりも長いベルト:ちなみに通常の長さのものを並寸と呼びます)・寸短(通常よりも短いベルト)ベルトを同一価格で、全アイテムに対して用意されました。これは、ベルトを販売する立場としては、在庫負担等非常に勇気のいる決断だと思うのですが、どの様な経緯で生まれたのですか。

(国枝)5名のプロジェクトメンバーで進めていたのですが、私自身がかなり強く推してメンバーに納得してもらい実現させました。その背景はお客様です。腕の太い方、細い方、美しく着けたいと思っている方は納期を待って余分にお金を払わなければならない。これは私には我慢ならないのです。その場ですぐに着けられるのが最大のお客様満足になるだろうと思いました。そこにチャレンジしようとプロジェクトメンバーに語りかけました。「やろうぜ」と。みんなを奮い立たせました。納期を短縮するために在庫は当社でしよう。そして次は店頭に在庫してもらおうと。

(石田)リーダーがビジョンを持って進めたからこそ実現できたのですね。

(国枝)アパレル業界では、LLサイズや3Lサイズ、SSサイズ等当たり前のようにあります。なぜ、時計ベルトにはないのか。業界に対する意識改革であり、ある種のインパクトを市場に与えたかった。そんな思いがこの寸長・寸短ベルトに込められているのです。

(石田)私は寸長、寸短ベルトはオーダーメイドで対応することが、多くの種類から選べてよいのではと考えていましたが、お客様の時間とお金を余分に使うという発想はその通りだと思いました。反省です。

(国枝)何らかの損失になってもお客様満足が得られるなら、そのためのコストは全額がコストにはなりません。反対意見もありましたし、リスクについて説明する意見もありましたが、誰かが一歩を踏み出さないと業界は変わらないと思いました。そしてその誰かは我々なのだと。

(石田)商品が出来るまでは色々な思いがあったようですね。

(国枝)実は商品開発に営業責任者の立場でかかわったことはありましたが、商品開発の中心メンバーとしてかかわったのは今回が初めてでした。本当にいい経験をさせて頂いたと思います。毎日新商品のことばかり考え眠れない日もありました。土曜日の夜11時くらいにふと気になることが芽生え、プロジェクトのメンバーに電話したこともありました。こんな経験は人生で初めてでした。

(石田)初めて「WAQUIZ」を市場に出したとき、セイコーという名前ではなく「WAQUIZ」で出しました。何か意図があったのですか。

(国枝)2006年に、通常のセイコー市販ベルトの販路と区別するためにセカンドブランドを設定して販売を開始いたしました。

(石田)今回の製品を世に出すにあたり、「WAQUIZ」と「SEIKO」の両方が可能だったと思いますが、「WAQUIZ」にしたのには何か理由がありますか。

(国枝)プロジェクトの中では、時計ベルトにおけるセイコーのイメージを変え、セイコーの地位を向上させるため「セイコー」ブランドで行こうという意見と、「セイコー」ブランドに頼らずに行こうという意見の二つに割れました。主に年配者が「セイコー」ブランドを主張し、若手が「セイコー」ブランド以外を主張しました。私自身、今回はセイコーウオッチの販路も使うため「セイコー」ブランドで販売した方が売り易いのではという保守的な考えをもっていました。半年にも及び議論を積み重ねているうちに、タイヤ理論に行きつきました。これは、例えばトヨタ車にはトヨタ社のタイヤでなくても売れているという理論です。さらには、セイコー名は知名度が在り過ぎていて、新しい商品に対して、新しさという意味でマイナスに働くのではと危惧しました。本当に深く議論し、流通サイドの方々の声も聴くうちに、だんだん「セイコー」じゃなくてもいいのかもしれない、そして最後には確信となり、「セイコー」ブランドをやめようと決めました。そして、新たなブランドをはじめからから起こすより、既に認知されている「WAQUIZ」ブランドを使った方がより効果的であると考え、「WAQUIZ」のニューモデルという位置づけで今回の発売となりました。

(石田)国枝さんの立場でこうすると決めればそう決まった可能性もあったのに、6ケ月間も若手の意見に耳を傾け続けてきました。プロジェクトメンバーにとっては、素敵なプロジョクトだったと思います。

(国枝)とにかく若手の意見は封じ込めない。これは徹底しました。なぜ「セイコー」では駄目なのかを徹底的に議論しました。最も時間を費やしたのもこの命題でした。今手元にある資料もこの命題に関するものが一番多いです。

(石田)「WAQUIZ」は腕時計には純正ベルトしか付かないと思っているお客様に、「純正ベルト以外のベルトも付きます」ということをお知らせするには非常に適した商材だと思います。

(国枝)時計ベルトは、時計を腕時計足らしめる商材であると思います。時計を腕時計にしたのはベルトのおかげなのです。でなければ懐中時計になってしまいます。そこが一番大切だろうと思います。時計と同じブランドのベルトでなければならないというお客様はだんだん減ってくると思います。


今後の時計ベルトの展開について ≪経営安定商材へ≫

(石田)今後、時計ベルト事業はどの様に進めていかれますか。

(国枝)「WAQUIZ」はまだスタートしたばかりですので、取扱店舗はあまり多くありません。これを百貨店中心に一店舗ずつ着実に増やしていければと思っています。また、専門店様に対しても仮の案ではございますが、取り扱い店舗1県1店舗を目指したいと思います。そして、経営を安定させる商材に育てていきたいと考えています。


おわりに

(石田)最後に時計ベルト業界、並びに当社石国にエールを頂ければと思います。

(国枝)時計ベルト、されど時計ベルト。腕時計を決定づける重要なアイテムであると思います。それを、少なくとも日本国内に発信していきたいと思います。そして世界にも目を向けたいという夢を持っています。その第一歩として御社と現場で色々教わりながら進んで行ければと思います。御社は時計ベルトのプロフェッショナルだと思います。また、小売部門で培われたお客様視点とお客様満足の向上に常に挑戦されているプロフェッショナル企業集団だと思います。今後も連携しながら、共に進んでいきましょう。

(石田)暖かいお言葉を頂きましてありがとうございます。こちらこそ今後ともよろしくお願い致します。そして、素敵なお話をありがとうございました。





編集後記

温厚で人当たりの優しい方でした。また、人の話をよく聞かれ、丁寧に話される方でした。一方で、信念をしっかりと持ち、将来を見据えているところなどは、さすが大手企業の部長職に就かれる方だなと思いました。


印象に残った言葉はいくつかあるのですが、「真実の瞬間」という言葉に強く惹かれました。商品がお客様の手元に渡り、代金を受け取る。それこそが、源泉であり、我々を存在させていただき、そしてここから利益が生まれるという真実。商売の原点という言葉はよく聞かれますが、それをスカンジナビア航空で社長を務められたヤン・カールソン氏の言葉とのことですが「真実の瞬間」という言葉を使って表すなんて、なんて素敵な方なのでしょう。


国枝さんは人に思いを伝えるための努力を惜しまない方でした。前述の「真実の瞬間」という言葉も、お客様を第一に考えようということを伝えるために自ら探して出会った言葉なのでしょう。本文にはありませんでしたが、パッケージのイメージを伝えるために、子供の工作道具をかりて、パッケージのモックアップを作ってプロジェクトのメンバーに見せたりもしたそうです。(写真参照)


そんな国枝さんが時計ベルトを担当されて思ったこと。それは、頑張っている企業もあるが、全体としては昔ながらの商売から脱却していないこと。イノベーションの欠如、イノベーションを産み出すチャレンジの少なさ、そんなことを感じているのではと思いました。そして、そのイノベーションを起こすのは我々だという信念も合わせて持っていると感じました。

今回「WAQUIZ」でイノベーションを起こすための第一歩を踏み出した国枝さん。実は次の一手についても面白い案をお持ちのようです。2013年頃にまた時計ベルト業界を賑わしそうです。その時にまた話が聞ければと思います。



今回第1回としてスタートした「ウォッチェルト談義」。私自身も本当に勉強になり、そして、私の大切な「時」に彩りを添えてもらいました。「されど時計ベルト」「腕時計を決定づける重要なアイテム」と時計ベルトに対する熱い思いも聞かせて頂きました。国枝さん、そして担当の岩崎さん、この様な機会を頂き心から感謝です。

今後も様々な人に「時計ベルト」をテーマに話を聞きに行こうと思います。どうぞ、ご期待ください。また、私と「時計ベルト」をテーマに話しがしてみたい方がもしいらっしゃいましたら、当ホームページのお問い合わせまでご連絡ください。